アイドルLovers(18禁)
第十一章 勘違い
悠斗と瞬をマンションに送り届けたあと。真希は芳樹の部屋で話をしようとしたのだが、話は事務所でしたいと芳樹が訴えた。 真希を車に残し、芳樹は大きい紙袋を手に、戻った。紙袋の中には、今朝詰めておいた『プレゼント』が入っている。 リバースタープロダクションに着いた時には、午後十時を過ぎていた。 事務所にはまだ、真希の父である社長が残っていたので、芳樹は社長にも話を聞いてもらうことにした。 社長室にある応接用のソファーに座って、真希親子と相対する。 悠斗と瞬には黙っていてください、と、念を押したあと。芳樹は、始めから順を追って説明した。 話が進んでいくうちに、二人の顔は険しいものに変わっていく。 「なるほどな」 話が終わると、社長が不意に声を上げた。 社長は、真希と良く似た目を細め、芳樹の横に置いてある紙袋に目を止めた。 真希と似ているのは目の形だけである。社長の見た目は、ヤの付く職業を彷彿とさせる。体格の良い筋肉質な体。どこで買ってきたのですかと問いたくなるような、柄シャツが紫のスーツから覗いている。 「芳樹。それが、プレゼントか?」 頷いた芳樹に、社長は手をさしだした。紙袋から出せということだろう。 芳樹は中にあった物を全て、机の上に並べた。届いた七つのプレゼントの内、五つは箱から出して持ってきた。残りの二つは未開封なので、箱に入ったままだ。 社長は、並べられた品物を眺め、ウエディングドレスを着たクマのぬいぐるみを手にとった。 立ち上がり、何をするのかと窺っていると、机の上に置いてあったカッターナイフを手に取った。 刃を出して、ぬいぐるみの背中に突き立てる。 「お父さん!」 驚きの声を上げた真希には答えず、社長はぬいぐるみの中に指を突っ込んでいる。綿が破れた背中から飛び出し、床に舞い落ちる。 しばらくして、社長はぬいぐるみの中から、小さな黒い物体を取り出した。 それを床に落としたかと思うと、勢いよく踏みつける。硬い物が壊れる音が、室内に微かに響く。 足を退けた時には、その黒い小さな物は完全に壊れていた。 「盗聴器だな」 床で無残に壊れたそれを見下ろし、社長は呟いた。 芳樹の背が冷たい手に撫でられたように、寒くなる。 「ストーカーね」 真希は嘆息と共に呟いた。 「ストーカー? これ、ストーカーなの? でも、歩いているとき後ろをつけられたりしたことはないけど……」 「ヨーシーキー。おまえ、自分のことになると、本当に鈍いな」 社長に凄むように見られて、芳樹はウッと言葉に詰まった。 「本当にねぇ」 真希にまで同意されてしまった。真希だって、自分のことには疎いタイプのくせに。 「でも、何で俺? 相手、男だし」 疑問が口をついて出た。真希が考えるように顎に手をやる。 「もしかして、アレかしら。美王のCM。アレが放映されてから、あんた妙に男に好かれているものね」 「まあなぁ。ありゃあ、確かにそそる感じの美人だったからな。それから、あのCM以降、おまえ、雰囲気変わったろ」 芳樹は、えっと、目を瞠る。瑛士にも似たようなことを言われた。社長もそう思っていたのか。 「今まで、何でか、シュンとユウトの陰に隠れていたおまえが、ここ最近は自分のオーラを隠さなくなった。良い傾向だと、俺ぁ思っていたんだがな。それが、悪い方向へ出ちまったか」 良い傾向という社長の言葉に、芳樹は面食らった。今まで自分は、瞬と悠斗を引き立たせるために、努力してきた。それがいけなかったということなのだろうか。 「あの、俺、目立った方が良いんですか?」 芳樹の問いに、社長と、真希が同じように目を丸くして、異口同音に声を上げた。 「はあ?」 その勢いに押されつつ、言葉を続ける。 「だって、俺。ユウトやシュンと違って不細工だし、何でWinのメンバーに選ばれたんだろうって考えて、俺が入れば、二人の引き立て役にはなるのかなぁって……」 そこまで言った所で、社長が眉間に刻んだ皺を揉むように片手で押さえながら、もう一方の手を芳樹に向けて、言葉を遮った。 「待て、待て待て。つまり、おまえは、今まで、二人の引き立て役として、Winのメンバーに入れられたと思っていた訳か」 芳樹は素直に、頷いた。 社長の横で、真希が怒ったように肩を震わせる。 「信じられない! 本当にバカ。あんたもバカだけど、私もバカ。あんたがそんな風に考えていたなんて、まったく見抜けなかった」 悔しそうな真希の声を聞き、芳樹は首を傾げた。 「えっと、違うんですか?」 「違うに決まってる!」 父と娘の呼吸はぴったりだった。同じように叫んで、二人して疲れたように項垂れて、肩を落とす。 社長が、顔を上げた。 「いいか、ヨシキ。おまえが何で、そんな妙な勘違いをしちまったのかは知らねぇが、おまえは不細工でもねぇし、シュンとユウトに比べて見劣りすることもねぇ」 どすの利いた声で、社長が告げる。その横で、真希は頷いている。 「そうよ。それに、私が一度でも、ヨシキに、シュンとユウトの引き立て役になってくれって言ったことがある? ないでしょう。私はWinを業界一のアイドルグループにするのが夢なの。あんたをWinに入れたのは、その夢を実現させるためよ。そんなグループの中に、引き立て役なんて必要ない。必要なのは、個々の個性が光る輝きを持った宝石だけ。それぞれが綺麗に輝いてこそ、値打ちがでるの」 熱心な真希の声を、芳樹は俯いて聞いていた。 引き立て役は必要ない。 きっぱりと言われた真希の言葉。 真希は自分に宝石としての価値を見出したということか? だが、それは買い被りというものだ。 自分にそんな価値がないのは、嫌というほど、承知している。 「いい? ヨシキ! これからは、自分は引き立て役だ。なんて思わないこと。Winのリーダーであるあなたが、そんな考え持っているなんて許さない。これからは、シュンやユウトのことより、二人よりいかに自分が目立つか。それを考えなさい」 芳樹は真希と目を合わせないまま、首肯した。 しかし、本当にいいのだろうか。 自分が目立つことが、本当にWinのためになるのか? 沈黙が落ちる室内。 芳樹の頭には、昔、投げつけられた言葉が過っていた。 あんたを見ていると、イライラする。 近寄らないで。気持ち悪い。 汚い面、しやがって。 おまえ、見ていると吐き気がする。 かつて投げつけられた言葉の数々が、芳樹の心の傷口をまた抉った。 無意識に胸を押さえた芳樹の耳に、社長の声が届いた。 「話がずれたな。ヨシキ。とりあえず、送られてきた物は、ここに置いていけ。また送られてきたら、必ず報告すること。あと、捨てずに事務所へ持ってこい。大事な証拠になるからな」 社長の声に現実に引き戻され、芳樹は頷く。 「それから、家に帰ったら電話線はつないでおけ。電話がつながらないってなったら、相手がどんな行動を起こすか分からんからな」 「はい」 芳樹は重い気分のまま、頷く。 「留守録は残してあるっていってたな。それも何かあった時の証拠になるかもしれないから、気持ち悪ぃだろうが、消去するな」 真希は顎を摘まむようにしながら、父の話が終わるのを待って、芳樹を上目使いに見た。 「どうする? どっか、ホテルとろうか」 真希の提案に、芳樹は首を横に振った。 「いや、いいよ。そこまでしてもらわなくても。今のところ、電話とプレゼントが送られてくるだけで、大した実害はないし」 「でも、現に、ストレスを感じているんでしょう。それに、危険じゃない? ホテルが嫌なら、お兄さんの所に一時的に戻ってもいいし」 「それは絶対だめ」 つい向きになった芳樹に、真希が眉を顰める。 「何で?」 「兄さんには、迷惑はかけられないから」 大声を上げてしまった事を恥じ、芳樹の声は小さくなった。 真希は心配に顔を歪めている。 「よしっ。決めた。ヨシキ。今日はうちに泊まれ。そんで、明日業者呼んで、部屋に盗聴器やら、隠しカメラやらが仕掛けられてないか確認する。家に戻るのはそれからだ。いいな」 芳樹は、社長の強面の顔と、雰囲気に気圧されて頷いた。 |
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