アイドルLovers(18禁)


第七章 初体験

 壁に押し付けられたまま、芳樹は悠斗に唇を貪られていた。
 胸が押しつぶされそうに痛い。だが、それは嫌悪感からくるものでも、悲しさからくるのでもない。それだけは、経験の乏しい芳樹にも分かった。
「んっ……」
 悠斗がキスの角度を変えるたび、甘い吐息が芳樹の唇からこぼれる。
 どれくらい、キスを交わしていたのだろう。
 随分と長い時間に思えた。
 悠斗の唇が離れていく時、芳樹は寂しさに似た感情を覚えた。
 それと同時に、体の力が抜けて、床に座り込みそうになる。
 それを、悠斗が芳樹の腰を掴んで抱きとめる。
 芳樹は無意識に、悠斗の肩に腕をまわして、抱きついた。
 悠斗の肩に額を乗せる。
「気持ちよかった?」
 耳元で尋ねられて。キスで、恍惚となっていた芳樹は、素直にうんと返事をした。
 悠斗の肩に額を乗せていた芳樹は、気づかなかった。悠斗が芳樹の答えを聞いて、笑みを見せたことに。

 悠斗に誘われて、ベッドのある寝室へと足を踏み入れる。
 コートを脱がされ、ベッドの上に組み敷かれた時。
 ようやく、芳樹は我に返った。
「ちょ、ちょっと待って。ユウト」
「何だよ」
 悠斗に上から覗きこまれて、一瞬、息が詰まる。
 格好良い。
 今まで、可愛いとしか思わなかった悠斗の顔が、ひどく格好良く見えた。
「ヨシキ?」
 不審そうに名を呼ばれ、芳樹は自分が悠斗に見惚れていたことに気づく。慌てて、口を開いた。
「あ、あのさ、何で、こんな態勢になってるのかな? と、思って」
 悠斗は一瞬虚をつかれた顔をしたあと、ニヤリと笑った。
「そりゃ、今からおまえを抱くからだろ」
 当然のことのように言われて、芳樹はうろたえる。
「え? お、俺が抱かれるの? ユウトに?」
 悠斗は眉を顰め、顔を近づけてきた。
「何? ヨシキは俺を抱きたいの?」
 近くなった顔の距離に、胸の鼓動が早まる。
 芳樹はぶんぶんと、首を左右に振った。
「そんな、俺、ユウトを抱くとか、抱かれるとか、考えたことないし」
 悠斗を見ているだけで、ドキドキするけれど。
 悠斗に触れられた場所が、熱くなったりするけれど。
 悠斗を自分が抱く姿も、自分が抱かれる側に回った姿も、想像したことがない。
「ふーん。でも、試すんだろ? どこの誰とも分からねえ奴とやるより、経験豊富な俺とやる方が、断然良いと思うけど」
 経験豊富という言葉に、芳樹の胸がツキリと痛む。芳樹はそれを隠すように、顔を横向けた。頬にシーツが当たる。少し冷たかった。
「でも……」
「まだ、何かあるのかよ」
 不満げな、悠斗の声。
 芳樹は、恥ずかしさを押し殺しながら口にした。
「あの、俺、そういう、経験、ないし……」
「経験? そりゃ、他の男と経験あるとか言われたらビックリ……」
 そこまで言って、悠斗ははっと息を飲んだようだった。
 悠斗は無理やり、頬を両手で挟むようにして、芳樹の顔を正面に向けさせた。
 目と目が合う。
 芳樹の瞳を見つめながら、悠斗がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「もしかして、おまえ、女と寝たこともないの?」
 心底驚いたといった悠斗の表情に、芳樹はむっとし、非難めいた視線を向ける。
 黙り込んだ芳樹の反応が、悠斗の問いの答えになった。
「マジかよ」
 呆然と呟いた悠斗の瞳に、欲望の焔が宿った。だが、経験のない芳樹は、彼の変化に気付かなかった。
 悠斗が、顔を落としてきた。
 芳樹の体が微かに震える。
 悠斗が耳元で囁いた。
「おまえは何もしなくていい。俺が、めちゃくちゃ、気持ちよくしてやるよ」
 悠斗の声には、情欲が滲んでいた。
 はっと息を飲む芳樹の唇を、悠斗は性急な動きで奪った。



 本当に、悠斗は手慣れていた。
 巧みなキスに翻弄されている間に、悠斗の手は芳樹の服の中へ侵入し、脇腹をなぞる。
 もう片方の手は、すばやく芳樹の着ていたシャツのボタンをはずしていった。
 悠斗のキスが唇から、首筋へと落ちて行く。
 その過程で、悠斗は言った。
「本気で嫌になったら、言えよ。やめてやるから」
 悠斗が話すたびに、首筋に息がかかり、それすらも、芳樹の体の熱を上げた。
 気がつくと、芳樹は全裸になっていた。
 素肌を悠斗の唇や手で、愛撫されて。芳樹の呼吸がどんどん色をおびていく。
「あっ……、も、そんな、トコばっか……」
 自分でも驚くほど、甘い声だった。
 悠斗は熱心に、芳樹の胸の突起を舐めていた。舌を這わせていない方の胸は、手で愛撫される。むず痒さに、体を動かしても、その動きに合わせて、悠斗の舌と手が追って来る。
 暖房の付いていない部屋は、寒いはずなのに。体が熱くなっていく。自分の体が変わっていく。そんな不安を覚えて、芳樹は悠斗の名を呼んだ。
「ユウト……んっ」
 ふいに、悠斗が芳樹の胸の突起を指で摘まんだ。その瞬間、びくっと体が震える。
「やっ……何?」
 驚いて目を見開いた。悠斗は、芳樹の胸に伏せていた顔を上げて、軽く笑んだ。
「男にも、胸に性感帯ってあるんだよ」
 では、今のは、快感というやつなのだろうか。ぼんやりとした頭の中で、そんなことを思う。
 ゆっくりと胸をまさぐっていた悠斗の手が、下肢へと向かう。
 己の欲望を掴まれ、芳樹は慌てて、悠斗の手を押さえた。急所を掴まれれば誰だって、怖くなるに違いない。芳樹は慌てて声を上げた。
「ちょっ……何」
 与えられる快感に、自然と潤んだ瞳で悠斗を見つめる。上気した頬は赤く、芳樹の顔は、意志とは関係なく、酷く艶めいていた。
 悠斗は、しばらく動きを止めて芳樹を見つめた。ごくりと唾を飲み込んだあと、意地悪く笑った。
「おまえのここ、もうこんなに濡れてるぜ。このままじゃ辛いだろ」
 悠斗がおもむろに、掴んでいた芳樹の欲望に、顔を落とした。悠斗が、何をしようとしているのか、芳樹は悟った。熱をおびていた体が急激に冷えるような気がした。
 芳樹は、力の抜けた体で、出来うる限りすばやく上半身を起こした。今にも芳樹の雄を口に含もうとしていた悠斗の髪を掴む。
「ちょ、無理。絶対無理。汚いって」
 悠斗が顔を上げて、非難の目を芳樹に向けた。その視線にひるんだが、芳樹は繰り返した。
「本当に、無理。風呂にも入ってないし」
「分かったよ」
 ため息交じりの声をだして、悠斗は芳樹の腕を掴んだ。ぐいっと力任せに引っ張られ、芳樹は再び唇を奪われる。
 芳樹自身を掴んでいた手を、悠斗は上下に動かし始めた。
 キスの合間に、再びベッドにあおむけに横たえられる。その間も悠斗の手は止まらない。
「あっ……あっ……んっ」
 悠斗の唇が離れると、熱い吐息と一緒に、喘ぎ声が漏れた。胸の突起を再び食まれ、的確な下肢への刺激と相まって、体が再び熱を取り戻す。
 あっという間に、芳樹は悠斗の手の中で果てた。
「早っ」
 悠斗の揶揄する声が耳に届く。芳樹は射精したせいで、余計に力の入らなくなった腕を持ち上げて、悠斗の肩に拳をぶつけた。
 荒い呼吸を繰り返しながら睨むと、悠斗が楽しそうな表情を見せた。
「でも、気持ち良かっただろ?」
 問われて、もともと上気していた頬がさらに熱くなるのを感じる。
 悠斗は腰をかがめて、横たわる芳樹の唇にちゅっと音を立ててキスをした。
 芳樹が重い体を持て余している間に、悠斗はベッドの下をさぐって、チューブの様な物を取り出した。
「何それ」
 見とがめて、声をかける。悠斗は掌に、チューブの中身を出し、楽しげに答えた。
「ジェル」
 何に使うのだろうと思ったのが、顔に出たのか。悠斗は呆れた声を出した。
「言っとくけど、まだ終わってねぇからな」
「そうなの?」
 すっかり終わった気でいた芳樹は、素直に驚きの反応を見せた。悠斗は、はあっと息を吐きながら、芳樹の尻の狭間に指を当てた。
 芳樹は反射的に体を震わせる。
「俺、抱くって言ったよな?」
 芳樹は戸惑いながらも頷いた。
「男同士はここを使うんだよ」
 言いながら、悠斗はおもむろに人さし指を芳樹の中へと突き入れた。
 自分ですら触った事のない芳樹の中を、悠斗の指が動きまわる。
 ジェルのおかげか、痛みはなかった。ぬるぬるとした感触が、どんどんと奥へ進んでいく。
 たった指一本なのに、異物感が芳樹を襲う。
「汚いから、やめっ」
 制止の声を上げようとしたが、途中で声が詰まってしまった。
 悠斗が後に入れていた指を増やしたのだ。
 二本になった指は、バラバラに動きまわる。
 快感よりも、気持ち悪さが先に来た。
「ユウトっ」
 非難を込めて、悠斗の名を呼ぶ。
 芳樹の内部を犯していた指が、ある一点をついた。
 その瞬間、萎えていた自身の欲望が頭をもたげる。
「あっ、何」
 体を走る強い刺激に、困惑して芳樹は声を上げた。
「前立腺。良かった。ちゃんと感じるんだな」
 悠斗はそう言うと、執拗にそこに刺激を与える。
 芳樹は否応なく、喘いだ。
「あっ……あっ」
 芳樹の中に、もう一本指が増えた。
 悠斗は、内部に埋め込んだ指はそのまま、身を乗り出して、芳樹の唇に唇を重ねた。
 ひっきりなしにこぼれる艶めいた声が、悠斗の唇に吸い取られる。
 キスからもたらされる快感と、後から与えられる快感に、芳樹は我知らず腰を揺すっていた。
 唇を離した悠斗は、もういいかなと呟いた。
 芳樹の足を両腕で抱え上げるようにする。体に力が入らず、芳樹はなすがまま悠斗を見つめた。
「入れるよ」
 何を?
 問う暇も与えず、芳樹の後に熱い物があてがわれた。
 それが何かを考える間もなく、ずぶりと指とは比較にならない物が、芳樹の中に入ってくる。
「嘘……」
 ゆっくりと侵入してくる熱いそれは、ジェルの力を借りたおかげが、意外とスムーズに芳樹の奥へと侵入する。
 凄まじい圧迫感。
「ユウトっ……嫌、やだっ」
 反射的に後ろへ下がろうとした芳樹の腰を、悠斗は掴んだ。
 そのまま、ぐっと奥まで悠斗の熱が芳樹の中へ突き入れられた。
「ああっ」
 声を上げて、のけ反った芳樹の首筋に、悠斗はキスを落とす。
「すっげー狭い」
 悠斗は、芳樹の濡れた瞳を覗きこんだ。
「おまえのここ、ちゃんと俺を飲みこんでる」
 悠斗の告げた言葉に、芳樹は一気に羞恥に見舞われる。
「嫌だって、言ったら、やめるって、言ったのに」
 激しく呼吸を乱しながら、切れ切れに抗議した芳樹に、悠斗は微笑した。
「俺は、本気で嫌って言ったらやめるって言ったんだ。あんな声で嫌って言われても、やめられねぇな」
 芳樹の赤く染まった眦に、悠斗は唇を寄せた。音を立ててされるキス。
 いくつも、顔の上にキスの雨を降らせたあと、彼は言った。
「動くぞ」
 それが、合図だった。
 悠斗が腰を使い始めた。
 痛みが快楽へと変わっていく。
 芳樹の口から、ひっきりなしに、喘ぎ声が漏れる。とても、我慢できなかった。
 強い、強い快感。
 ずっと残っていた、初めての行為に対する不安が消えて行く。
 芳樹の弱い部分を執拗に、悠斗が攻め立てる。
 何も、考えられない。
 与えられる快楽に、酔い、芳樹は乱れた。
 嬌声を上げながら、たまらず、シーツを掴む。
 その手を悠斗は、自身の肩に導いた。
 悠斗の肩につかまって、芳樹は声を上げ続けた。再び頭をもたげてきた芳樹のそれを、悠斗は扱きあげる。
「あっ……ユウっ……も、ダメ」
 切れ切れに訴えると、芳樹は悠斗の手の中で白濁を飛ばした。その瞬間、悠斗を包み込んでいる内壁がぎゅっと悠斗を締め付ける。
 息をつめて、悠斗が達した。
 はあはあと荒い呼吸を繰り返す芳樹の額に、悠斗はキスを落とした。
 情欲に濡れた悠斗の目が、芳樹を捉える。芳樹は黙って、悠斗を見返した。
 悠斗は、ふいに苦笑した。
「ゴメン。まだ足りない」
 宣言通り、まだ芳樹の中にあった彼の雄が力を取り戻したのが分かった。
 芳樹は、息をのみ込んだ。
 悠斗が動き出す。
 芳樹は、また快楽の波に引きずり込まれていった。

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