アイドルLovers(18禁)


エピローグ

 井上悠斗は、ダンスレッスンを終えた直後、名を呼ばれて振り返った。
 事務所のスタッフが、悠斗と似たような年頃の男の子を連れてくる。
「この子、新しく入ることになった湧井芳樹君。年はあんたより、一つ上よ。井上の班に入れるから、仲よくしてやって」
「よ、よろしく」
 悠斗は頭を下げるその子を、舐めるように見て、口を開いた。
「先に言っとくけど、俺、男だから」
 いつものごとく、先制攻撃に出た。
 毎日のように、悠斗は女の子に間違えられる。不愉快極まりないのだ。
「え?」
 案の定、相手は悠斗を女と勘違いしていたらしかった。戸惑ったような顔をこちらに向けてくる。
「俺の名前は、井上悠斗。正真正銘の男だからな。気持ち悪い間違いしやがったら、ぶっ飛ばすぞ」
 本気が伝わるように、相手を睨みつける。こうやって、先に攻撃して相手に舐められないようにするのが悠斗の流儀だ。
「こら、井上。いきなりケンカ売ってるんじゃないわよ」
 スタッフが慌てたような声を上げて、悠斗を窘めるが知ったこっちゃなかった。
 どうせ、こいつも、怒りだすか、顔とのギャップに驚いて、俺のこと避けるかのどっちかに決まってる。
 俺を女と間違うような奴と、はなから仲良くしようという気はない。
 じっと睨みつけていた相手の困惑した表情が俄かに変った。
「ごめんね、井上君。怒らせちゃって」
 彼は、微笑した。悠斗に握手を求めるように、手を差し出す。
「これから、よろしくね」
 その声音はひどく優しく悠斗の耳に届いた。
 こいつ、こんな綺麗な顔してたんだ。
 突っかかることばかりに気をとられ、相手の顔をまじまじと見ていなかった。
 今までに見たことのないほど、整った顔立ち。
その顔に浮かんだ笑顔は、天使を思わせた。
 悠斗の胸が高鳴る。
 そっと、差し出された手を握る。彼の手は少し冷たかった。
「よろしく」
 呆然としたまま、そう言うと、彼は満面の笑みを悠斗に向けた。
 その瞬間、悠斗は恋に落ちていた。

 しかし、悠斗がその恋心を自覚するのは、もう少し先の話だ。
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